眩惑

伸行作品




この話はお題の加筆ver.となります。話の内容は こちらへどうぞ。

(丹羽中 〜醒めない夢〜)





ゆっくりとドアを開いた。

目の前に広がる淫猥な空気に一瞬で飲み込まれる。

「な、んなんだよ……おいっ」

 目の前の光景に思わず絶句した。

どうやって呼吸をしていたのか…それすら忘れてしまうくらいにムッとするような淫らな空気が丹羽の肌に纏わり付いて、離れない。

部屋に入るなり、ドアを閉めた。

パタン、と乾いた音がやけに大きく部屋に響く。

その音のリアルさに丹羽の表情が僅かに強張った。

 誰かに見られてやしないかとドアに耳を欹てるが、幸いなことに誰も通りかかっていなかったようである。

板一枚隔てた向こう側は平穏な空気が漂っていた。

そして彼の目の前では。

いつの間に止んだのだろうか、夕日が学生会室の床を赤く染めている。

 脳の動きがフリーズしていた。

「……おや、会長」

戻っていらしたんですか

 七条の声が丹羽にかけられる。

その暢気な声に一気に頭に血が集まっていった。

逆上しているのが自分でも分かる。

こんな所で鍵もかけずに、一体何をしているんだ。

 常識人を気取ったような文句が喉を出掛かる。

「戻っていらしたんですか、じゃねえだろ」

何、してんだよ

 しかしそんな文句の代わりに地を這うような声が腹から響いていった。

射殺さんとするかのような獣の瞳が二人に、いや声をかけた七条に向けられる。

空調がきいていてもなお、熱かったこの部屋に一瞬だが冷たい空気が走っていった。

(七条+丹羽×中嶋 〜眩惑〜)





藤沢様作品



窓のないその部屋には、一枚の絵が掛かっていた。

白い雲のたなびく青い空は、いかにも爽やかそうで光に満ちていて。

しかし地上は何故か闇に包まれている。

それは昼と夜とが同時に存在する非現実的な絵だった。

囚われの身の無聊の慰めのつもりなら、もっとましな絵をかけろ、この駄犬。

そう罵ってやりたくても、その相手は今ここにいない。

無論、あの男の顔を眺めていたい訳ではないので、それは構わないが。

それ以前にあの男のやたらと分厚い面の皮に、皮肉や嫌味が通じるとは思えない。

不自由な足を捩って身じろぐと、冷たく重い金属音が床に這う。

両足首についた足枷と鎖。

手首の拘束は食事中には外される。

――――――――――ああ、それからセックスの時にも。

そこに考えが及べば、また新たな怒りが湧き上がる。

暗く何を考えているのかわからない紫紺の瞳を瞬かせて。

いくら拒んでも飽きもせず、俺に向かって薄気味悪いほど甘い言葉を囁く七条。

こんな部屋に監禁して。

グロテスクなまでに頑丈な鎖で身体を拘束して。

平然と不自由はさせていないと言い張る。

何度無視してもバカの一つ覚えか、後で服用しろとばかりに白い錠剤が添えられた食事のトレイ。

どうせ後で無理やり飲まされるのだから変わりはないのだろうが、俺はそれを無視することで食事ごと七条を拒否する。

七条はそれを飲ませることで俺を支配しようとする。

どちらも本人にしか意味のない、意地の張り合いだ。

ただ、俺が七条を拒むたびに奴の瞳は虚ろになっていき、俺は七条に抱かれるたび理性と矜持が削り取られていく。

こんな監禁ごっこに是も非も、プラスもマイナスも、何の意味もありはしない。

まさに自殺行為と呼ぶに相応しい、不毛で笑えないお遊びだ。

男同士のセックスにも似た……



媚薬と忌々しい小道具とで俺を貶め、弄りながら。

それでも飽きもせず愛していると言い続ける惨めな男。

―――――やってくれたじゃないか、七条。

もう、お前を憎いなどという生温い感情などでは、とても言い表すことができない。

(七中 〜タンタロス〜)





「……似合わない無償奉仕の、報酬が欲しいか?」

「え?」

 中嶋が笑っていた。

 その肉体の味を知ってしまった、七条に向けて意味ありげに。

「俺に会う口実が欲しかったんだろう?」

「……っ」

 ―――――この人は何が言いたいんだ?

「俺を抱きたいのか?」

「先生っ!」

 ―――――胸が、苦しい。

「……抱かせてやってもいいぜ?この間みたいに」

 心臓が壊れたみたいにドクドクと喧しい音を立て始める。

「……ここは学校ですよ」

 どんなに冷淡に、さも軽蔑しているように突き放したくても。

「あなたの倫理観は、おかしいんじゃないですか?」

 どうしても声が震えてしまう。

「お前には言われたくないな。お前だって俺の下で狂ったように腰を振っただろう?それともお前は真性のゲイか?」

「……っ!ですが、あれは……っ」

「……俺は悦かっただろう?」

 中嶋が薄く笑みを浮かべながら眼鏡を外す。

 眼鏡をかけていない中嶋は、その鋭利な印象が幾分薄れて柔らかくなる。

 そう言えばあの時も眼鏡はかけていなかった……

 なんて傲慢な物言いだろうと思いつつも、その顔に魅入られてしまったかのように目が離せない。

「最高の身体、最低の淫売」

 その言葉に、ずくりと下肢が疼いたのは錯覚なんかじゃない。

「俺を抱いた奴は皆口を揃えてそう言う」

 それ以上近付くな。

 そう言いたいのに舌は強張って固まり、何も言えなくなってしまう。

「一度俺を抱いてしまえば、他の誰を抱いても満足できないと」

 するりと中嶋の手が一度だけ頬を撫でていった。

「セックスは初めてだったのか?」

「え?……あ」

 七条の反応でそれが図星だと悟った中嶋は、ふっとどこか満足気な笑みを浮かべる。

「初めての相手が俺だなんて、気の毒なことをしたな」

「…………そんな白々しいこと、今更良く言えますね」

 殊勝な言葉の裏で、そんなことほんのこれっぽっちだって思ってもいないくせに。

(七中・学生パラレル 〜それは、魔法のような〜)



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