ふるーつ・ぽんち



「篠宮さん、早速始めましょう?」

大掃除。

笑顔のままで篠宮さんの腕を取って俺は道場の掃除道具入れに向かって走っていく。

普段は弓道部員が交代で掃除しているけど、毎日ではなくて部活のある時だけだからそれを補うために、

篠宮さんが毎朝この広い道場を一人で掃除してくれているのだ。

今日と違ってホウキとモップだけど、それだけでも凄く大変だって事は直ぐにわかる。

俺は水のみ場でバケツに水を溜めながらそんな彼の陰の仕事を考えていた。

…今回の大掃除だって同じだ。

きっと俺が昨日、食堂で今日の予定を尋ねなかったら一人でやってしまうつもりだったんだ。

「…そんなに背負い込んで、大丈夫なのかな?」

ポツリと、俺の口から零れた疑問。

寮長として忙しい日々なのに、それに輪をかけてこういう陰での仕事も絶対に忘れない。

誰が見ていようといまいと、この人は絶対に変わらないんだ。

「たまには、頼って欲しいな」

どんな事でも喜んで力になるのに。

そう呟いた言葉を水のみ場に残して、俺はバケツを持ち上げると雑巾掛けするべく道場に戻っていった。

(篠啓 〜陽だまり〜)





「噛み締めると…跡が残ってしまいますよ?」

噛み締めるなら 僕の、指を噛んでください…

笑いながらそう囁けばあからさまに焦るような顔で僕を見つめ、啓太は自分の舌を使って、

そして体を支えていた手を使って、僕の指を口から外そうと試みる。けれど、それが長く続かない事は知っている。

なぜなら、支えていた躰が侵入を抑えていたものを無くして更に深く僕自身を飲み込む事になってしまったから。

根元ギリギリまで咥え込んだ啓太は衝撃でビクンと躰を跳ねさせて。

その様子はもしも僕の指が舌を押さえていなかったら いつものように嬌声を張り上げていたんじゃないかと思うほどの反応だった。

「啓太君…」

優しく微笑んで啓太の手を離し、その手をベッドについて上半身を起こすと優しく片腕で抱き締めて敏感な耳元に吐息交じりに名前を呼んだ。

唾液が伝う自分の指に舌を這わせながら啓太の口唇に顔を近づければ…期待に満ちた瞳が僕にキスをねだる。

「愛していますよ」

(七啓 〜ラヴ・シンドローム〜)





「それはよかった」

笑いながら、自然とその唇に引き寄せられる。

「和―― …」

「黙って」

不思議そうに言葉をかける啓太の声を封じて、和希の唇が優しく覆う。

舌がするりと唇の合わせから入り込み、口内に侵入する。上蓋を優しく愛撫して歯列の裏をなぞり、サクランボごと舌を絡めとった。

甘く、弾力のある果肉を軽く押し潰して種子を出すと自分の口内に持ってくる。

次いで、サクランボを唇ギリギリの所まで出すと歯で半分に噛み切った。

「ご馳走様」

手の中に種子を吐き出して和希がニッコリと邪気の無い笑みを浮かべる。

その種子を皿に落とせば、カランと硬い音が部屋に響いた。

(和啓 〜朱桜〜)





ベッドが軋みを上げて、啓太の足が中嶋の腰に絡み付く。

こんな風に躰を重ねるようになってもう、三年の月日が過ぎた。

すぐに終わってしまいそうだったあやふやな関係は、それでも長く二人を縛り付けて放さなかったらしい。

汗ばむ肌が馴染んだ相手を忘れる事が出来ないとでも言うように、ぴったりとくっ付いて互いの体温を分かち合う。

最早、そんな関係が当たり前になっていた。

「っ、啓太 ……」

中嶋の低く呻くような声が啓太の名前を呼ぶ。それだけが、彼らの全てだった。ただ傍に互いの熱を感じて、ただ触れ合うだけの関係。

愛しているとも、好きだとも。甘い告白めいた言葉など何一つない空間で生きてきた。

それが当たり前だった。

互いが互いの歩む道を阻むことなく、束縛することなく、けれどもかけがえの無い存在として。

アブノーマルな関係だと知りつつも離れる事は出来なかった。

(中啓 〜二人に来る朝〜)



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