司会者の紹介と共に、客席が一瞬にして静寂に包まれた。 ステージに向けられる視線が一気に欲望に塗れたものに変わっていく。 ポスターから抜け出した美女が大人の雰囲気を醸し出す空気の中ステージの上を歩いていった。 一歩歩くごとにその視線を観客達に向け、うっすらとその口元に笑みを浮かべて。 薄紫の絹のような布がスポットライトに柔らかな光を反射させていく。 太もも半ばまで開いたスリットからはガーターベルトによって留められた黒いストッキングが時折覗いた。 それが覆う足はすらりと伸びて完璧なほどに美しいシルエットを作り出す。 誘うように僅かに開いた唇は紅がひかれ、アイラインに縁取られた切れ長の瞳が何も遮るものがない顔の上で細められた。 その視線が観客を捕らえるだけで、会場内に淫靡な空気が生まれてしまう。 この男は知っていた。 分かっていて、誘うのだ。 全ては優勝の為に。西園寺の目の前で先程までの和やかな空気が崩れていく。 そして同時に。自分の隣でそんな彼をじっと見つめる七条にも気付いていた。 強いまでの眼差しが、彼の一挙一動を捉えようとして離さない。 無言なままに見つめる瞳が、普段の仮面すらかなぐり捨てて欲望を滲ませる。 七条のそんな表情を見つめるのは恐らく、初めてだろう。西園寺はそう思いながら小さく苦笑を零さざるを得なかった。 今まで感情を自分にすら見せることのなかった七条の、ここまで生々しい表情は見たことがない。 「面白いものだな」 人はこうまで変わるものなのか マイクの音量をオフにした状態で西園寺は呟いた。そして薄紫のドレスに身を包んだ男の方を見つめる。 ふと男の視線がこちらに移り、自分の視線と正面からぶつかった。 苦労しているようだな、そう視線で話しかける。 すると男はお互い様、と西園寺にしか分からないように肩を竦めた。 そしてすぐにその表情を悪戯っぽい笑みに変えるとステージの真ん中でスカートの裾を摘まんで軽く引っ張った。 太ももがきわどい場所まで観衆の視線に晒される。 男達の歓声が、会場を揺るがせた。 |
「 … 来いよ」 中嶋の唇が脳内に侵入して、七条に命令を下す。 操られた彼の思考回路は支配者の唇を、肢体を、全てを貪り尽くさんとして手を伸ばす。 「まさか、ここまでやってくださるとは、ね」 思ってもみませんでした そう呟いて、真っ白な首筋に舌を這わせながら七条がドレスを優しく脱がしていく。 胸元を肌蹴させたところで現れた中嶋の滑らかな肌がしっとりと手に吸い付き、更なる愛撫を期待するかのような鼓動が肌越しに七条に伝えてくる。 紫外線すらその侵入を許さなかった肌を暴いているという現実に、七条の心に優越感が生まれた。 早い鼓動は筋肉はおろか薄い皮膚を通り越して中嶋に伝わっている事だろう。全てが中嶋のペースの中にいた。 「お前のその顔が見たかったからな …… 」 もっと、見せてみろ 七条の首筋に腕を巻きつけて、彼の顔を自分の口元に引き寄せ熱を含んだ囁きを吹き込ませた。 スリットから、ストッキングに覆われた膝を立てる。 しなやかな足が覗いた。その動きに促されるように、覆いかぶさったままで七条はスリットに手を差し込む。 太ももの内側、柔らかな感触を楽しむように手が動いた。 愛おしむ様に撫でながら、ガーターベルトからストッキングを外して片足ずつ脱がす。 パサッと乾いた音が濡れ始めた部屋の空気に紛れ込んで、掻き消されていった。 ストッキングを両方とも脱がしてしまえば、その奥に見える際どいカーブを描く男性用の下着でさえ淫靡に七条を誘っているようにしか見えなくて、 はやる気持ちを懸命に抑えながらじっとりと汗ばんだ手のひらが再び中嶋の太ももを撫で回す。 出来るなら、すぐさま彼の中に己を突っ込んで絶頂に悶え狂う中嶋をこの視界に収めたい。 そんな欲望が沸き起こる。 けれども、中嶋にせがませるほど焦らしてみたいのもまた事実だ。 どうしようか迷いながらも表面ではなんでもないフリを装う七条の手は、迷う心から触れそうでけれども決して核心には触れないかのように、何度も太ももの付け根を往復していた。 それはさながら、彼らの恋愛ゲームにも似て、焦らす動きは二人の熱を更に煽る。 |
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