虚脱





気付いた時には もう…

君を 失っていた





ザァ―…

朝から降り続く雨が、しきりに窓を叩く。

ぼんやりと窓の外を眺めていた篠宮は、代わり映えのない景色に気付き、軽く息を吐いて再びノートに視線を落とした。

本来の彼ならば、こうして気を抜く事がなかったはず…だった。

まして 授業中に。



―岩井の失踪を知り、伊藤から事の真相を聞いた時、冷水を頭から浴びせられたように己の身が凍った。

虚脱感の全てはそこから。

それは自分でも痛い程わかっている。



もう二度と、彼を見つめる事も作品を鑑賞する事も、もはや叶わない。

事実に打ちのめされて

ふらつく足が、自然に岩井の部屋へ向かった事もあった。

…誰も、いないと知りながら。

美術室が、主を無くして ただの広い空間へと変わって

残された作品達が、泣いていた。

呼び掛けても応ずる声のない四方を白い壁で覆われた部屋はただ過去だけを残していた。

そこに、あの繊細で淡い姿は ない。



「…卓人」

無機質な空間の中で彼の名を呼びかけてもそれに答える気恥ずかしそうな、照れた顔はもう……

信じ切れない現実を呆然と見つめながら立ち尽くす自分自身の幾筋もの涙が頬を冷やすのを感じて

ようやく自分が彼に対して抱いていた感情を知った。



何時の間に 彼はこんなにも自分の一部になってしまっていたのだろうか。



当たり前

そんな言葉が今更に重く、篠宮の躰にのしかかる。

何故もっと岩井の傍にいてやれなかったのだろうか

何故もっと相談に応じてやれなかったのだろうか

何故もっと・・・



もっと早くこの感情に気付けなかったのだろうか



後悔だけが篠宮の胸をグルグルと駆け巡る。



授業が終わり、それぞれが寮や部活へ向かう中

篠宮は一人、美術室へ足を運んでいた。

岩井がいなくなって数日。

戻っているかもしれないと淡い期待を心のどこかに抱きながらの

…既に日課になってしまった彼の行為。

そして。

今日もまた誰もいない空間に分かっていても落胆する。

「…卓人、どうしてなんだ?」

呟いた声は空の遥か彼方でとどろく雷鳴にかき消されて。



記憶の片隅で思い出される教室の隅に残された炭酸の抜けた缶ジュースが

自分に重なって見えた。

FIN


ちょびっと加筆したverをお届けしてみました。 以前書いた物を読み返すと…内容が薄すぎたので。うん。 でもまだ短いの(笑)駄目じゃん。 岩井さんの「失踪」ですよ!!もしもこの時に篠宮さんが恋愛感情を抱いていたならっ!(啓太はスルー・笑) と妄想を膨らませて書いてみました〜。やっぱりですね、哀しむと思うんです。 いつも がナイから。当たり前の日常、当たり前の風景、当たり前の行動。彼がいなくても同じなはずなのに だけどやっぱりどこか違う。そんなイメージを出したかったのです。本当は。でも…無駄な足掻きとなりましたが。 負けないもんっ!(笑)

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