あのとき


家に、 今 家にいて…



ちょっと思い出した。



あれは帰り道。夜、人混み。

信号待ちの、見知らぬ彼の、後ろ姿の彼の、

カーキ色のパンツの裾が、すれていた。

その下のコンクリートがテカテカ不気味に光っていて……



さらに思い出した。



あのとき雨が降っていてんだ。

いや、もうすぐにでも止みそうで、

休み休みパラパラと傘が鳴っていた。

雨粒ははっきり見えなかった。

見えなかったのは…

…そう、人がたくさん居たからだ。

それで、たしか……



もっと思い出した。



あのときは傘が邪魔だった。

音でしか知ることが出来なかった雨を、

偽物と決め付けることにして、

急に晴れた空が見たくなったんだ。

でも傘がパラパラと音を立てて、

頑固に雨だと言い張るから、

邪魔だったんだ。

ああ邪魔だこの傘!邪魔だこの傘!

って思ったんだ。

空と僕の間に割り込んで!って

でも、これまでずっと傘は正しかったから、

やっぱり思い直した。

傘、ごめんね。



すっかり思い出した。



あのとき、

本当にひたすらに星空が見たかったんだ。



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