たまご


ここなら安全。

爆風も遙か遠くに。

刃も迷わずに欠けさす。

貴方の声はここからでも良く聞こえた。

皆が寝静まった頃、貴方はほぼ毎日話しに来てくれた。

私に未だ見ぬ世界を、少しずつ分けてくれるのが楽しみで仕方なかった。

次第に雑音が昼夜を厭わなくなって、

貴方の来ない日が増えていった。

雑音はかえって私の心を静寂に浸した。

やがて全てを使い果たしたのか、争いは止んだようだった。

久しぶりに貴方が来て、もう大丈夫と、優しく言った。

待ちわびた貴方の声で、私はたちまち笑顔を取り戻した。

次の日、私は時期だと思って、ここから出ようとした。

でも、どこを探しても出口は見あたらなかった。

焦った。早く、貴方に会いたい。

触れたい。

未知の世界を貴方といっしょに飛び回りたい!

ついに私は今まで守ってくれたこの流線型の壁を、両手の拳に力を込めて叩き始めた。

暫くすると涙が溢れてきて、拳たちがぼやけた。

壁は柔らかく衝撃を吸収して、何の跡も残さなかった。

途方に暮れた私は、いっそのこと死んでしまいたいと思った。

ところが、ここは安全すぎて、死を選択肢から奪ってしまう。

その日の晩、貴方が来て言った。

もう、会えない。

…え?

僕は遠くに行く。

ギリギリなんだよ。

君がこの殻を破って出てくるように、ほとんど毎日通ったんだけど…

無理だったみたいだね。

君と行きたかったけど、時間がないんだ。

…どうして?私はいつも貴方の話を食い入るように聞いていたのよ?

驚いたり、笑ったりしていたでしょう?

なのに、何でそんなこと…

ふと気がついた。

私の声、貴方には届いていなかったことに。

貴方の言葉、

さようなら。

酷く悲しげな声色。

色あせない。



笑い方もとっくに忘れてしまったけど、いいの。そんなもの必要ないの。



何も聞こえない。

いつまでも響く。



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